Q.まず、税理士を目指した経緯についてお聞かせください。
私の名前の「庸」の字は租庸調の庸なんですよね。なので、名付けのときから税金にまつわる仕事に縁があったのかもしれないです(笑)。でも実は、高校時代は寿司職人を目指してお寿司屋さんでアルバイトをしていました。人と話すことが苦手で、職人のように黙々と仕事をするのが理想だったんです。それに食べ物に関わる仕事なら食いっぱぐれもないと思っていました。ですが、学生時代の友人が「算盤一級を持っているなら税理士という職業もあるよ」と教えてくれたので、この仕事に興味を持ちはじめました。

Q.寿司職人から税理士へというのは意外ですね。
そうなんです。もともと算盤をやっていたので、数字を扱う仕事である税理士もコツコツやれば大丈夫じゃないかなと。当時の税理士の仕事は黙々と机に向かって計算をすることだったので、職人のイメージもありました。それに、税理士は安定した収入が見込める食いっぱぐれが無い職業だと思ったのも大きな理由です。
Q.そういった経緯ですと税理士になるための勉強は大変だったのではないですか?
はい、非常に大変でした。もともと勉強は好きではなかったので、20代で勉強を始めたのですが、青春を犠牲にした感覚があります。そして前述のお寿司屋さんの顧問をしていた税理士の先生にお世話になり、働きながら、簿記論・財務諸表論・所得税法・相続税法・法人税法を受験して、27歳で税理士試験に合格しました。
Q.そこから独立する際の決断についても伺えますか。
当時は所属税理士という制度がなかったので、税理士登録=開業だったんです。しかし、最初は独立開業するつもりはなかったので税理士登録後も、その先生のもとで働いていました。
開業のきっかけですが、当時、先生は事務所を開設していませんでした。私は自宅で一人で業務を行っていましたが、わからない点があったりや詰まったりしたときは、とても不安になりました。先生に事務所の開設をお願いしていたのですが、なかなか事が運ばなかったので、数年後に思い切って独立開業することを決めました。
最初は事務所を借りるために借金をしてマイナスからのスタートとなりました。当然毎日が不安でしたが借金を返すために必死に働きました。
Q.その後、顧客を増やすためにどのような取り組みをされましたか?
もともと営業が苦手で、なかなか顧客が増えませんでしたが、TKCに加入して仲間と情報共有をするなかで、顧客の増やし方や仕事のやり方などを学んで、少しずつ顧客が増えていきました。
とにかくいろんな人の話を聞いて勉強しました。当時は今と違いネットも何もないので、関係性を作るためにはやっぱり飲み会とかいろんな集まりとか、全部参加しました。
また、先輩から「退路を遮断しろ」と言われ、開業二年目以降も借金をして事務所を広くし、職員を雇用していました。投資をすると借金がかさむので、そこでまた必死に働いて。その繰り返しでした。
税務署の無料相談から契約を結ぶとか、小さなところから一件ずつ顧客が増えていきました。

Q.繋がりをとても大事にされていたんですね。顧客との関わりのなかでも大事にされていたこと・大事にされていることはありますか。
昔から今までずっと行ってきていることですが、ただ決算書の数字を説明するだけではなく、社長と一緒に当期の課題や来期の計画を立て、役員報酬を決定するための判断材などを提供する決算検討会を商品として提供していますね。また、事務所の経営指針と成長計画書を作成していまして、事務所全体で顧客のことを考えて仕事をしていくことを文章で明確化して、ことあるごとに職員にも解説しています。
Q.しっかり明文化されていて、先生の理念が共有されているんですね。
まだまだ共有は道半ばですが、共有できるように会議の仕方や事務所方針の検討は工夫しています。私のほうである程度の方針や中期ビジョンは決めていますが、具体的なアクションは職員に考えてもらっています。毎月の会議でも、ボトムアップで課題解決方法をみんなで一緒に考えています。トップダウン型は簡単なんですが、過去の失敗からそれはしないようにしています。
Q.過去の失敗とは何でしょうか。
実は過去に2回ほど、幹部を除いて職員がほとんど退職したことがあるんです。クーデターですよね。当時、私は自分の考え方が正しいと思い込んでいたので、受注した顧客を職員に任せきりにし、職員から上がってきた意見を聞いておりませんでした。組織って自分一人じゃなくて、全員で組織となるのにそれをわかっていなかったんです。自分が作った組織で、組織を守る動きをしているつもりだったのに、最終的に自分が組織の敵になっていたんです。
Q.そんなご経験があったんですね・・・。
そうなんです。そこで今度は自分自身を振り返らないと、と思って、ある勉強会に参加しました。『思考力学習』という自身の価値観を振り返って、それが人から見てどうなのかをフィードバックしてもらう、自分の価値観を変えるような勉強会です。とても辛く逃げたい気持ちも大きかったですし、今でも逃げたい気持ちはあります(笑)。自分が正しいと思いたい。ですがその勉強会で、トップダウンで話をするのではなく、職員の話を聞かないといけないということを学びました。そこから会議の仕方も、トップダウンではなくボトムアップの問題解決型の会議に変えました。時間はかかりますが、所内のいろいろな課題について職員にも考えてもらっています。職員にも社内・社外問わず対話型のコミュニケーションを意識してもらっています。
Q.その意識が、以前伺った「製販統合」のお考えに結びついてくるのでしょうか。
そうですね。「製販分離」では自分の仕事が終わったら完了になってしまうと思うんです。ですが、製造チームはチェック者や販売チームのことを考えて、こう処理したら販売チームの職員はやりやすいんじゃないかとか、その先の顧客のためになるんじゃないか、等考えながら仕事をする「製販統合」の考えで仕事をしてもらっています。
職員には、言われたことをやる「作業」から、自分で思考して行う「業務」、さらには顧客へ付加価値を提供する本来の「仕事」をしてほしいと思っています。経営理念の「中小企業の経営を守る」にあるとおり、継続する企業を守ることで、私たちは社会や国家に貢献できると考えています。そのためにも、まだまだ成長していかないといけません。

Q.そのなかで、MyKomonがお役に立てているところはあるでしょうか。
スケジュールや業務報告書を活用させてもらっています。また、これからはメールではなく電子会議室で顧客とやり取りして、セキュリティの向上や、やり取りの見える化を進めていきたいと思っています。十分活用させていただいています。
Q.ありがとうございます。 最後に、経営者へのメッセージをお願いします。
経営者の責任は大きく不安な気持ちもあると思いますが、自分自身に目を向けることが重要です。現状を見つめ直し、少しずつ改善することで、道が開けると思います。行動するためには、考え方を変えることが必要です。辛いことを当たり前のものと捉えて少しでも改善できたらそれが第一歩です。現状を少しでも良くするための努力を続けることが大切です。
私たちの経営理念は、中小企業を守ることです。中小企業を取り巻く状況は厳しいですが、私たちができるサポートをし続けたいと思っています。
Q.ありがとうございました。貴重なお話を伺えて、非常に勉強になりました。

