Q.税理士を志したきっかけを教えてください

 税理士を目指したきっかけは、正直に言えば、褒められるような動機ではありませんでした。20歳の頃、世の中はまさに就職氷河期。周囲でも就職に苦労している人が多く、自分もこのままではいけない、手に職をつけようと考えたのが出発点でした。バブル崩壊後の社会を見て、「これをやれば安泰」というような選択肢は通用しない時代に入ったと感じていました。
 そんな中、大学の本屋でたまたま資格の本を手に取り、「税理士なら自分でもなれるかもしれない」と思ったことが、すべての始まりでした。両親や親戚に税理士がいたわけでもなく、完全にゼロからのスタートです。誰かに勧められたわけでもなく、自分で見つけ、自分で選んだ道でした。
 税理士試験に落ちたことももちろんありますが、挫折したという感覚はありませんでした。「やるしかない」という気持ちがずっとあったので、落ち込んで立ち止まるよりも、とにかく前に進むことを選んできました。反省はしても、必要以上に落ち込まない。そういう姿勢が、自分に合っていたのだと思います。

Q.事務所として大切にしていることは何ですか?

 私の事務所で一番大切にしているのは、「対話」です。税理士というと、どうしても数字だけを扱う仕事のように見られがちですが、実際にはその数字の奥にある経営者の思いや状況に寄り添う必要があります。だからこそ、単に資料を出すだけでなく、それをもとにどれだけしっかりと対話ができるかが重要だと考えています。
 例えば、売上や粗利、営業利益の推移をグラフ化したり、月次の比較表や三期の累計値を見える化した資料を作成したり、それらを使ってスタッフが顧問先と対話を重ねています。こうした取り組みにより、お客様もより数字に関心を持ち、経営の意思決定にも活かしていただけるようになります。
 また、クラウドツールやAIなど、使えるものはどんどん取り入れる方針です。新しいツールに対して抵抗がある人もいるかもしれませんが、私はとにかく「まず使ってみる」ことが大事だと思っています。現状維持に安心してしまうと、変化の波に置いていかれる。だからこそ、職員にも「今のままでいいという考え方は時代にそぐわないよ」とよく伝えています。

Q.今後、力を入れていきたいことはありますか?

 今後特に注力したいと考えているのが、AIの活用とBPO(業務の外部委託)です。これから日本の労働生産人口は確実に減っていきます。そうなると、すべての企業が社内に経理担当を置くことが難しくなり、経理業務を外部に委ねる必要性が高まっていくでしょう。そうした中で、税理士事務所として提供できるサービスの幅を広げることが求められていると感じています。
 AIやクラウドの技術も日々進化しています。顧問先からも、「今後こういった技術を使っていかないといけないですね」という声が増えています。だからこそ、私たちがまず率先して使いこなし、提案できる立場にいなければいけないと感じています。ChatGPTや録音ツールなども実際に活用しており、今後も積極的に新しい技術に触れていきたいと考えています。

Q. 事務所の成長や今後のビジョンについて教えてください

 事務所としても着実に成長を続けてきました。今年の秋には、現在のオフィスから同じビルの7階に移転し、スペースは約2倍になります。ワンフロアすべてを使用できるようになり、職員や顧問先の増加に対応できる体制を整える予定です。
 これからは、職員の数だけでなく、クラウドワーカーやAIといったリソースも活用しながら、より効率的で柔軟な事務所運営を目指していきます。
 人間にしかできないことに集中できる環境を整えることが、質の高いサービスにつながると考えているからです。
 毎年1回、全職員を集めて方針発表の場を設け、理念や将来の方向性を共有しています。その中でも、「お客様の黒字化と発展に全力を尽くす」という創業当初からの理念を改めて確認し、ぶれることなく進んでいけるよう歩みを進めていく方針です。
 一宮での開業は13年前。当時、一宮にはすでに多くの税理士がいましたから、自分が開業したところで、何か変わるわけではありませんでした。だからこそ、「自分という存在がこの地域でどう必要とされるのか」を常に意識しながらやってきました。出身地でもない、一切地縁のない場所で事務所を開くというのは大きな挑戦でしたが、その分、逃げ道がなかったことが良い意味で自分を鍛えてくれたと思っています。自分で道を切り開くしかない。その覚悟が、今の事務所のスタンスにも繋がっています。

Q.MyKomonがお役に立っていることはありますか?

 日々の業務の中でありがたく活用させていただいています。やはり、会計事務所が母体となって開発されたツールということで、現場のニーズに合った機能が多く、業務管理や申告の進捗管理がとてもやりやすいです。
 どれか一つの機能が特に素晴らしい!というよりは、全体的に使い勝手がよく、予定管理なども非常に見やすい点が気に入っています。私自身まだ十分に使いこなせていない部分もありますので、今後さらに使える機能を広げていきたいと思っています。

Q.経営者の皆様に一言お願いします。

 経営をしていると、必ず迷いが生まれたり、壁にぶつかったりする時があります。そんなときに必要なのは、誰かに相談できること、一緒に考えてくれる伴走者の存在です。私はいつも「前向きに進もう」と努力していますが、それは決して簡単なことではありません。だからこそ、一人で抱え込まず、税理士という存在をうまく活用してほしいと願っています。
 この事務所を選んでいただけたらもちろん嬉しいですが、たとえ他の税理士事務所であったとしても、「税理士と一緒に経営に向き合っていく」という姿勢を持っていただけることが何より重要です。
 感謝の言葉をいただいたり、成長を支援できたりするたびに、「この仕事をしていてよかった」と心から思います。

大石佳明先生、ありがとうございました!